
吉田のうどんとは? | 山梨富士吉田市の名物の特徴・歴史・発祥・由来を解説
すりだねが有名になったきっかけの吉田のうどんとは?
吉田のうどんは、山梨県富士吉田市周辺で市民や観光客から親しまれているうどんのこと。山梨と言えば「ほうとう」を真っ先に思い浮かべますが、特に富士吉田市民からすると名物・郷土料理といえば吉田のうどんになります。吉田のうどんは、日常の食事のなかでも頻繁に食べられているものであり、一日のうち一食は必ず食べるという人さえいるほど市域の人々に好まれている食物です。
また、市内にはうどん屋がたくさんあり、お昼時には多くの人でにぎわう様子がみられます。それぞれの店は麺の打ち方に工夫をこらしており、店ごとに異なった味つけは多くの人々の好みを満足させています。
2007年に農林水産省から農山漁村郷土料理の百選に選ばれており、山梨を代表するB級グルメとして全国にその名を広めました。
また、2013年に富士山が世界遺産文化遺産に登録されたことにより、国内外から観光客が富士吉田市・富士河口湖町に訪れるようになりました。
以上、2つの理由から吉田のうどんの知名度が上がったといわれております。
そんな吉田のうどんは富士吉田の風土・文化によって育まれてきました。吉田のうどんの特徴と歴史にも触れながら、吉田のうどんについて解説していきます。
吉田のうどんの特徴
吉田のうどんは、他のうどんと異なる点がいくつもあります。麺・具材・スープなど、初めて吉田のうどんを食べる人を驚かせるほどです。吉田のうどんの特徴を5つに分けて解説していきます。
吉田のうどんの特徴① 麺
吉田のうどんの最たる特徴として、コシのある麺が取り上げられます。吉田のうどんの麺には多量の塩が含まれているのと、男性が麺を打ってきたという歴史的背景があるのでこのようなコシのある太い麺が出来上がったとされています。コシ・太さ以外にも、麺がねじれているという特徴もあります。
関西の京うどんや伊勢うどんを食べなれている方にとって、吉田のうどんはカルチャーショックを受けるほどのコシ・弾力を感じることでしょう。
お店を出るころにはあごが疲れてしまう人もいます。お店によって麺の硬さ・太さは異なりますが、一般的な吉田のうどんの麺は以上のようなコシのある麺と言えるでしょう。
吉田のうどんの特徴② 具材
うどんは地域によって、それぞれの”色”がでるものですが、吉田のうどんの具材もほかの地域とは一味違った特徴があります。
吉田のうどんには主に「茹でキャベツ」「馬肉」「油揚げ」「かき揚げ」「ゴボウ」「人参」「きんぴら」がうどんにのっかります。馬肉といえば熊本や会津、長野が有名ですが、山梨県の富士山周辺でもよく食べられます。馬刺しも有名ですね。富士山信仰が盛んだった時代に馬を荷馬車として利用していたため、馬肉を食べる習慣がついたといわれています。
「肉うどん」「天ぷらうどん」「ちく天うどん」「冷やしたぬき」などいろいろなメニューがありますが、安くて350円ほど。これでも昔に比べて値上がりしております。吉田のうどんの天ぷらうどんは、エビやナスなどではなく「かき揚げ」一択です。
ちょっとほかの地域とは異なる具材を楽しんでみてください。
吉田のうどんの特徴③ スープ
吉田のうどんのスープは基本的には「味噌ベース」。他には「醤油ベース」や「味噌&醤油ベース」のお店もあります。ダシの多くはかつおだし。お店によってはこだわりの味噌を一年間かけてじっくり熟成させるお店もあるそうです。
吉田のうどんは冷やしたぬきとして食べることもできます。冷やしたぬきは当然ながら水で〆たうどんを食べるので、温かい状態で食べるよりもかなり食べ応えがあります。冷やしたぬきの場合はわさびを乗せて食べるというのも特徴です。吉田のうどん通な地元の方は、温かいうどんと冷やしたぬきを一人で両方食べることもあります。
吉田のうどんの特徴④ 辛味
吉田のうどんのお供に欠かせないのが、富士吉田の名物である万能辛味調味料「すりだね」。すりだねはうどん屋によくおいてある天かすや一味と同じような感覚でテーブルに置いてあります。
すりだねは、赤唐辛子をベースにゴマや山椒を加え油で炒めた調味料のことです。富士吉田や河口湖にある吉田のうどんやほうとうのお店に行くと必ずおいてあり、ほとんどのお客さんがせっせとすりだねをうどんに投入します。
ただ辛いだけじゃなく、辛い中にも旨味がギュッと凝縮されていて、辛い調味料が苦手な方でも少し入れるだけで旨味を感じることが出来ると思います。見た目・辛さはお店によって異なるので、是非いろんなお店に行って違いを楽しんで頂きたいです。
吉田のうどんの特徴⑤ お店
吉田のうどんのお店の特徴についても、吉田のうどんを語る上で外せません。
吉田のうどんは、元々家庭料理だったものを旅行者に向けて販売し始めたものになります。ですので、吉田のうどんのお店は基本的には民家をそのままお店にしたような場所が多くあります。写真のように、空間がまさに家そのものであり、お店の人の私物のようなものもあったりします。このお店は仏壇がおいてありました。
現在は古くからある吉田のうどん屋がなくなってきており、観光客向けのお店が増えてきているため、こういった昔ながらのお店は少なくなってきています。
昔ながらの雰囲気・歴史を味わいながら食べてみるのも吉田のうどんを知ることに繋がります。
吉田のうどんが生まれた富士吉田の風土とは?
富士吉田市は、富士山麓の標高650~850mに位置する高原都市です。年間平均気温は11℃という環境に加え、富士山噴火による溶岩流や火山灰という土壌のため、土地は非常に痩せており、稲作には不向きな土地でした。
そのため畑作が中心で、大麦・小麦・粟(あわ)・稗(ひえ)・とうもろこしなど雑穀類の販売を行い、それを粉にして水でこね、汁の中に野菜と一緒に煮込んで食べる「すいとん」を主食としていました。
この粉物文化が「吉田のうどん」が生まれる基盤になったとされています。
吉田のうどんを形成した富士吉田の文化とは?
昭和初期、富士吉田の主産業である織物が好景気で隆盛を極め、当時富士吉田の下吉田地区の世帯のうち大半が繊維業を営んでおり、町中で機を織る「パッタンパッタン」という音が鳴り響いていました。この繊維業が吉田のうどんを生むきっかけになっています。
一般家庭では、織物の機会を動かす女性に昼間に手間を掛けさせないために、男性が代わりに簡単に作ることが出来るうどんを作り始めました。
男性が力任せにうどんを捏ね、腹持ちをよくするために塩を多めに入れたため、コシのある麺が主流になったといわれています。
その中で、下吉田地区を中心に近所の機織り関係者や、東京や大阪から機織りを買い付けに来る問屋あるいは仲介業者にお昼を提供する場として、一時的に自宅の居間などを開放してうどん店を始める人たちが現れました。その名残が、現在の民家のような吉田のうどん屋なのです。
また、富士山振興の拠点の一つであった上吉田地区では富士山を訪れる富士講の信者に、登山前に麺とその麺を茹でた汁で作る「湯盛りうどん」を振舞っていたこともあったようです。穢れの無い白い色のうどんを食べて、神聖な富士へ足を踏み入れていくという意味があったようです。
このような湯盛りうどんも富士吉田のうどん文化の一つと言えます。
吉田のうどんは「晴れの日」の食べ物
富士吉田市では、吉田のうどんは本来「晴れの日」の食べ物とされていました。晴れの日はモノビともいい、盆や正月、村祭りなどの年中行事や、帯解き・結婚式といった人生儀礼、そのほか家の建前など、さまざまなお祝いを含む、普段の日とは違った晴れがましい日のことをいい、吉田のうどんはこのような日に必ず作られるものとされていた食べ物でした。
また、吉田のうどんは細く長い形をした食物であるところから、細く長く生きるようにとか、末長く幸せであるようにといった願いをこめて、このようなお祝いの日に限って食べられていたのです。
吉田のうどんと富士山伏流水の関係
吉田のうどんは、標高750m前後の、この富士北麓だから美味しいのです。
つまり、富士山に降り注ぐ雪や雨は、およそ年間22億立方メートルと言われています。それが富士山の懐にしみ込み一説には約80年の歳月をかけ、磨かれて地表に湧き出すと言われています。
富士山の大自然によって磨かれた水、これが富士吉田市の水なのです。現在、各家庭に配水されている水道水は、水温は、年平均12度前後で、年間を通じても9度から13度前後とあまり変化はありません。
したがって、暑い時は冷たく感じ、寒い時は暖かく感じる性質を持つことから、飲用した場合、大変喉ごしが良いとされています。また、ミネラル分は40mg/~50mg/lと軟水に位置しています。軟水は、口当たりがよく、まろやで、特に、入浴した場合はさっぱりとした爽快感を持ちます。
このように、水がうまく冷たいので、腰のある、また、喉ごしの良いうどんができるのです。
吉田のうどんと「ほうとう」との違いとは?
普段の日に吉田のうどんに代わる食物として食べられていたのはほうとうです。じつはほうとうも古くは晴れの日の食物で、かつては小豆汁で煮込んだほうとうが食べられており、吉田のうどんを晴れの日に食べることが普及するにしたがって野菜汁で煮込んだいわゆるほうとうが普段の日の食物になったと考えられています。
吉田のうどんもほうとうも小麦から作られるものですが、市域では小麦の生産量は少なく、かつてはほうとうもぜいたくな食物であり、小麦がたくさん生産されるようになってから普段にほうとうが食べられるようになったといわれています。
なお、ほうとうのことを市域ではニコミ・ニゴミ・ニッコミ・オスイトンなどと呼んでおり、ほうとうという言葉が使われるようになったのは最近のことです。ほうとうと吉田のうどんは同じ麺類ではありますが、両者にはいくつか異なった点がみられます。
形のうえからみると、うどんは細く長く、ほうとうは厚く幅広く短かいという違いがありますが、それは作る過程での違いからきています。うどんはねばりとコシを出すために小麦粉に塩を混ぜ、これたあと半日くらい寝かせますが、ほうとうに塩を入れる人は少なく、寝かせることなどはしません。したがってうどんはねばりによって細く長い形を保つことができるのに対し、ほうとうはもろく、ちぎれやすいものとなっています。
吉田のうどんとほうとうの最も大きな違いは、吉田のうどんはいったん茹でて水でさらしてぬめりを取り、ざるに盛り、それを箸でとって汁につけて食べるのに対し、ほうとうは切ったままの生の麺をそのまま野菜を煮た汁の中に入れ、味噌を加えて煮込むところにあります。
市域でほうとうのことをニコミとかニゴミなどと呼ぶのは、このように麺を煮込んで作るところから、そう呼ばれるようになったのでしょう。ほうとうはもろくちぎれやすい麺を煮込むため、汁に溶けてドロドロした状態になり、調理の上からみると、より古風を残した食物であり、一方吉田のうどんはより洗練された食物といえます。両者とも小麦粉を用いた麺類ですが、作り方の違いによってかなり様子の異なった食物となっています。
ほうとうは別の視点からみると、野菜の味噌汁に麺を入れて煮込んだものともいえます。味噌汁は普段の食事にはつきものであり、かつては野菜をたくさん食べるためのものであるといわれており、ある意味では主食に準じた食物ともいえます。とくにカボチャを入れたほうとうは「うまいもんだよカボチャのほうとう」などといわれるように、ほうとうにとって野菜は不可欠のもので、野菜と一緒に食べる食物であり、それは主食と副食を兼ね合わせた食物であると位置付けることができます。
富士吉田へ来たら吉田のうどんを食べよう!
吉田のうどんについて解説してきましたがいかがでしたでしょうか?
吉田のうどんには様々な特徴がありますが、特徴の一つ一つに山梨の歴史や風土が関係しているため、吉田のうどんを食べることは富士吉田や富士山について学ぶことに繋がります。
山梨の富士山周辺に来られた際は、ぜひ吉田のうどんを食べてみてください。